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観光スポットも 彩瀬まる新作は東北新幹線で行く連作集

2015.03.31 MAR 22:00
あやせ・まる。作家。1986年生まれ。著書に『骨を彩る』『神様のケーキを頬ばるまで』など。あやせ・まる。作家。1986年生まれ。著書に『骨を彩る』『神様のケーキを頬ばるまで』など。宇都宮近郊に暮らす祖母に会いに行く大学生、婚約者の郡山の実家へ向かう女性など、東北新幹線に乗って旅する人々と“ふるさと”の関係を描く連作集。実業之日本社 1400円

2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR‐18文学賞読者賞を受賞した作家・彩瀬まるさん。

新作『桜の下で待っている』は東北新幹線に乗って北へ向かう人々を描く連作短編集。千葉県出身の彩瀬さんだが、東北を旅行中に東日本大震災に被災したこともあり、北の土地には思い入れもある。

全5話の本作は、一話ずつ主人公と“ふるさと”の関係が異なる趣向。第一話「モッコウバラのワンピース」では大学生の青年が、晩年になって出会った男性と暮らすため、宇都宮近郊に移り住んだ祖母を訪問。

「“この人がいる場所が私のふるさと”という話にしようと思いました。女性向けの雑誌に掲載したので、甘くて可愛らしい話にしたかった」というように、おばあさんのワンピース姿が鮮明に脳裏に刻まれる一編だ。

第二話の「からたち香る」では女性が郡山の婚約者の実家に挨拶に行く。緊張感漂うなか、過剰に震災の話に反応してしまう時も…。「“愛する人のふるさと”の話です。 主人公は今まで被災地に縁がありませんでしたが、知らなかったものを 実際に目にすることで、印象が変わっていく部分を書きたかった」

第三話「菜の花の家」では青年が 母親の七回忌のために仙台の実家へ。「“自分のふるさと”の話。ここで は伊達政宗の墓所、瑞鳳殿を出そうと思いました。すごくきれいで、私にとって仙台の観光地のなかでいちばんインパクトがあったので」  

そう、実はどの話にも各地の観光スポットや見どころが登場するのがなんとも楽しい。さて、四話目「ハクモクレンが砕けるとき」は、最近下級生を亡くしたショックを抱える少女が、親戚の結婚式のために親と一緒に新花巻へ向かい、奇妙な体験をする。「両親の故郷なので“無意識下で自分と繋がりがあるふるさと”です。花巻の隣が『遠野物語』で有名な遠野市ですし、一度無意識の領域の話も書いてみたかったんです」

舞台は一話ずつ北上。ただ、第五話の表題作は東京に戻ってくる。「最後は故郷のない人を書くと決めていました。私自身、あまり“ふるさと”感を持っていなかったので、自分に近い人を出しました」

タイトルの意味が分かった時、読者はぬくもりに包まれる。ふるさとのある人もない人も、優しくノスタルジーをくすぐられる作品集だ。

◇あやせ・まる。作家。1986年生まれ。著書に『骨を彩る』『神様のケーキを頬ばるまで』など。

◇宇都宮近郊に暮らす祖母に会いに行く大学生、婚約者の郡山の実家へ向かう女性など、東北新幹線に乗って旅する人々と“ふるさと”の関係を描く連作集。実業之日本社 1400円

写真・岡本あゆみ 

※『anan』2015年4月1日号より

(by anan編集部)