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現代社会にはびこる呪いの言葉”に警鐘を鳴らす衝撃作『呪文』

2015.11.03 NOV 12:00
寂れゆく商店街の居酒屋の店主が、ネット上でクレーマーを撃退したところ、カリスマ的な人気者に。彼は街の改革を呼びかけるが…。河出書房新社 1500円。寂れゆく商店街の居酒屋の店主が、ネット上でクレーマーを撃退したところ、カリスマ的な人気者に。彼は街の改革を呼びかけるが…。河出書房新社 1500円。ほしの・ともゆき 作家。1965年生まれ。‘97年『最後の吐息』で文藝賞を受賞してデビュー。今年『夜は終わらない』で読売文学賞受賞のほか、受賞歴多数。著作に映画化もされた『俺俺』など。

星野智幸さんの『呪文』は、とある商店街にカリスマ的リーダーが現れてから起きる異様な事態を追った、スリリングな小説だ。

「ある種、究極のホラーを書いたといえるかもしれません。地方だけでなく東京の山の手地区でも商店街が急に寂れていく様子は前から書きたいと思っていました。一方で、ここ数年、路上にあふれるヘイトスピーチも気になり、現実を直視したテーマを盛り込もうと考えました」

寂れゆく松保商店街で唯一客の入りがよい居酒屋『麦ばたけ』。そこに来た悪質なクレーマーを撃退したことから店主の図領(ずりょう)は人気者になり、街の改革に乗り出し、言動がエスカレートしていく。商店街で店を営む青年、霧生(きりゅう)は傍観していたが…。

「図領だけを黒幕にするつもりはありませんでした。誰でも悪に転ぶ可能性がある。普通の人がおぞましい世界を作っていく様を表したかった」

商店街では自警団「未来系」が発足。理想に燃える彼らは強引な行動に走り、意外な人物をも洗脳する。

「ヘイトスピーチに走る人たちは、自分が言葉の暴力を振るっている自覚もなく、むしろ正義感や使命感に駆られていると感じます。そう思い込んでいるのは、彼らがある種、密室状態にあるからでは。狭い場所では洗脳されやすいから、間違った価値観でも受け入れてしまう。それはヘイトスピーチに限らず、日本のあちこちで起こっていますよね」

熱狂の波に乗り遅れてしまった霧生は、行き場を失って焦りだす。

「理想を持つことは大事ですが、全体主義的な考えは違う価値観を持つ人を受け入れない。それに、少しずつではなく、一気に社会を変えようとする人たちは強引な手段に出る。だから彼らはその社会にとって無駄な人間を排除しようとする。では、もしその時、自分が無駄な側の人間だったらどうするか、というのも書きたかったことのひとつです」

お前はクズだと言われ、「クズ道というは死ぬことと見つけたり」と言い聞かされた霧生は死を選ぶのか。

「自殺というのは、その人が自分で死を選んでいるのではなく、追い込まれての結果だったりする。そうした現実も感じてほしかった」

最後には一抹の希望もある。現代に蔓延するさまざまな呪いの言葉に警鐘を鳴らし、示唆を与える一冊だ。

◇寂れゆく商店街の居酒屋の店主が、ネット上でクレーマーを撃退したところ、カリスマ的な人気者に。彼は街の改革を呼びかけるが…。河出書房新社 1500円。

◇ほしの・ともゆき 作家。1965年生まれ。‘97年『最後の吐息』で文藝賞を受賞してデビュー。今年『夜は終わらない』で読売文学賞受賞のほか、受賞歴多数。著作に映画化もされた『俺俺』など。


※『anan』2015年11月4日号より。写真・土佐麻理子(星野さん) 森山祐子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)