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『悼む人』の天童荒太 新作は311後のフクシマが舞台

2016.02.08 FEB 22:00
震災の爪痕が残るフクシマの海で遺品回収をする舟作の前に一人の女が現れた─。舟作が子どもたちにするおとぎ話さえ愛おしくなる傑作。文藝春秋 1500円震災の爪痕が残るフクシマの海で遺品回収をする舟作の前に一人の女が現れた─。舟作が子どもたちにするおとぎ話さえ愛おしくなる傑作。文藝春秋 1500円てんどう・あらた 作家。1960年、愛媛県生まれ。’96年『家族狩り』で山本周五郎賞ほか受賞歴多数。2009年に直木賞を受賞した『悼む人』は映画化や舞台化もされ、大きな反響を呼んだ。

『悼む人』で、死者の無念に向き合った天童荒太さんが、今度は、生き残った人々の癒えぬ傷に寄り添って描いた小説『ムーンナイト・ダイバー』。

「いまの日本社会は短期的な成果にばかり意識を向けていて、悲しみが深すぎて立ち直れない人々を置き去りにしていくような空気がありますよね。そのことへのやるせなさと憤りが、震災から3年を過ぎたころから、むしろ強く湧いてきました。報道や社会があの喪失に関心を向けないのであれば、小説でしかできない形で掬い上げたいと思ったんです」

だが、この鎮魂と愛の物語をどう書けば人々に届くのか、答えは容易に出なかった。取材をする中で浮かんだのが、立ち入り禁止の海域で、人目を忍び、近親者が生きるよすがにするための“遺品”を引き揚げるダイバーのイメージ。非合法を承知で危険な任を担う舟作(しゅうさく)に、秘密の会のメンバーである透子が奇妙な依頼をしたことから、物語は動きだす。

「行方不明の夫の結婚指輪を探さないで」という透子の真意とは…?

その謎を追うページターナー(早く続きを読みたくなるような面白い本)であると同時に、本書にはいくつもの重いテーマが隠れている。

「どうしても触れたかったことの一つが、サバイバーズギルトです。愛が深ければ深いほど、生き残った人々が抱える罪悪感や後悔は深くなる。その普遍的な感情を舟作たちがいる小さな世界に込めましたが、期せずして、現代社会が抱える問題のメタファーにもなった気がします」

また、何よりも胸を打つのが、舟作がたどり着く愛の真理だ。

「経験や苦難を積み重ねていくことによって、文学や映画などにも表現されてこなかった“二人だけの境地”に達することができたら。そのとき、人は舟作のように、愛と呼んでいたもののもっと奥にある世界に踏み入っていけるかもしれないですね」

100枚くらいの短編の予定が、筆が止まらなくなり、1冊分に。

「いつも最初からぴたりと決まることはないんです。でも今回は特に『形はできているけど、まだ何かある』と、筆を入れるたびに新たな発見があって付け加えていきました。ゲラは都合5回修正。自分史上最速のスピードで書けて(笑)、5年めが来る前に書く約束が果たせた。僕自身、忘れがたい作品になりました」

◇『ムーンナイト・ダイバー』震災の爪痕が残るフクシマの海で遺品回収をする舟作の前に一人の女が現れた─。舟作が子どもたちにするおとぎ話さえ愛おしくなる傑作。文藝春秋 1500円

◇てんどう・あらた 作家。1960年、愛媛県生まれ。’96年『家族狩り』で山本周五郎賞ほか受賞歴多数。2009年に直木賞を受賞した『悼む人』は映画化や舞台化もされ、大きな反響を呼んだ。


※『anan』2016年2月10日号より。写真・岡本あゆみ インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)